大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)5792号 判決

原告 木村庄治

右訴訟代理人弁護士 宮島優

被告 穂積正雄

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 圓山潔

右訴訟復代理人弁護士 野口三郎

被告 斎藤勇

右斎藤承継参加人 島田栄治

主文

原告の請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、第一次的請求の趣旨として、

一  原告と被告ら及び承継参加人との間に、原告が、別紙物件目録第三記載の土地につき通行権を有することを、確認する。

二  原告に対し、

(一)  被告穂積正雄は、別紙物件目録第四の(一)の(2)記載の建物部分、同(3)記載の建物及び同(4)記載のコンクリート塀を、

(二)  承継参加人は、同目録第四の(二)の(2)記載の建物部分を、

(三)  被告菊地留吉は、同目録第四の(三)の(2)記載の建物部分を、各収去せよ。

三  被告三名及び承継参加人は、原告が、別紙物件目録第三記載の土地を通行することを、妨害してはならない。

四  訴訟費用は被告三名及び承継参加人の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、

一  別紙物件目録第一の(一)記載の土地(以下「原告所有地」という。)、同(二)記載の土地(以下「穂積所有地」という。)、同(三)の(1)、(2)及び(3)記載の各土地(以下これを合わせて「斎藤所有地」という。)、同(四)記載の土地(以下「菊地所有地」という。)並びに東京都世田谷区野沢町二丁目一〇五番の三三の土地(以下「宮崎所有地」という。)は、いずれも、もと訴外根岸市が所有していたところ、同人は、昭和二七年八月二五日に、被告菊地に菊地所有地を、同年一二月二七日に、被告穂積に穂積所有地を、原告に原告所有地を、及び、訴外宮崎照二に宮崎所有地を、昭和二九年六月一日に、被告斎藤に斎藤所有地を、それぞれ売渡し、さらに、被告斎藤は、昭和四三年四月二二日に、斎藤所有地を承継参加人に売渡した。

二  別紙物件目録第二記載の土地(以下「本件道路」という。)は、原告が、昭和一一年九月頃、原告所有地上の建物(現在原告が所有する建物の増改築前のもの、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟、床面積四二・一四平方メートル、一二・七五坪)に居住していた当時から、すでに近隣の者の通行に供されていた。

三  本件道路は、昭和二五年一一月に、建築基準法第四二条第二項の規定に基づく東京都告示第九五七号をもって、東京都知事より道路の指定を受けた。

四  このように、行政上の必要から本件道路につき道路の指定を受けた以上、私人にはここを通行することのできる私法上の権利が発生し、土地所有者その他何人においても通行を妨害することができないというべきである。

従って、原告は、本件道路を通行する権利がある。

五  仮に原告が右権利を有しないとしても、原告及び被告三名は、前記のように昭和一一年頃から本件道路を近隣の者が道路として通行していた事実を了承したうえで、前記のとおり、昭和二七年から昭和二九年までの間にそれぞれ訴外根岸から前記各所有の土地を買受けた。

従って、原告と被告三名との間には、右土地買受の頃、原告所有地を要役地とし、本件道路内の被告三名所有の各土地(別紙物件目録第三記載の土地)を承役地とし、原告が右承役地を通行しうる通行地役権を設定する旨の黙示の合意が成立した。

六  仮に右黙示の合意の成立が認められないとしても、昭和三七年九月一四日、原告と被告三名の間で、右と同内容の通行地役権を設定する旨の合意が成立した。

七(一)  被告菊地は、昭和三七年八月下旬、菊地所有地上にあった旧建物を取りこわし、別紙物件目録第四の(三)の(1)記載の建物を建築してこれを所有し同建物の一部である同目録第四の(三)の(2)記載の建物部分(別紙図面3)を本件道路にはみ出させ、その本件道路側の側面は、別紙図面ACE'Eを結ぶ線とほぼ平行である同図面G、Hを結ぶ線上にあり、昭和三七年末頃から同三八年にかけて、被告穂積は、穂積所有地上にあった同被告所有の建物を増築し、同目録第四の(一)の(1)記載の建物としてこれを所有し、同建物の一部である同目録第四の(一)の(2)記載の建物部分(別紙図面1)を本件道路上にはみ出させ、

また、被告斎藤は、斎藤所有地上にあった同被告所有の建物を増築し、同目録第四の(二)の(1)記載の建物とし同建物の一部である同目録第四の(二)の(2)記載の建物部分(別紙図面2)を本件道路上にはみ出させ、参加人は昭和四三年四月二二日に被告斎藤から同被告所有の右建物を買受けてこれを所有している。

(二)  さらに、被告穂積は、昭和三九年六月六日、原告所有地と穂積所有地との境界線の本件道路内の部分(別紙図面C、D間)の上に、別紙物件目録第四の(一)の(4)記載のコンクリート塀を設置したうえ、昭和四一年六月に本件道路上に同目録第四の(一)の(3)記載の物置(別紙図面4)を建築し所有している。

八  参加人は、前記のように被告斎藤から斎藤所有地を買受けたことによって、被告斎藤が負っていた原告の右各通行権の行使を受忍すべき義務を承継した。

九  以上のように、いずれにしても、原告は本件道路につき通行権を有するところ、被告三名及び承継参加人は、これを妨げ、かつ、今後も妨害するおそれがあるから、原告は、被告三名及び承継参加人に対し、第一次的請求の趣旨記載の判決を求める。

と述べ、

仮に第一次的請求が認められないとしても、第二次的請求の趣旨として、

一  原告と被告三名及び承継参加人との間に、原告が、別紙物件目録記載第五の土地につき、囲にょう地通行権を有することを、確認する。

二  被告穂積は、原告に対し、別紙物件目録第四の(一)の(3)記載の建物及び同(4)記載のコンクリート塀を収去せよ。

三  被告三名及び承継参加人は、原告が、別紙物件目録第五記載の土地を通行することを、妨害してはならない。

四  訴訟費用は被告三名及び承継参加人の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、第一次的請求の原因第一項及び第七項の(二)を引用したうえ、

一  原告所有地は穂積所有地及び宮崎所有地などに囲まれて公道に面しておらず、原告所有地から公道に達するには、本件道路のうち、別紙物件目録記載の土地を通行して、別紙物件目録第一の(五)記載の宅地の北西側の公道(別紙図面公道(イ)、に該当する。以下「本件公道(イ)」という。)に達するか、又は、宮崎所有地内の東南側にある幅員約〇・五ないし約一・二メートルの道路(以下「本件道路」という。)を通行して宮崎所有地の南西側の公道(別紙図面公道(ロ)、に該当する。以下「本件公道(ロ)」という。)に達するほかはない。

二  前述のとおり、原告、宮崎及び被告三名は、ほぼ同一の時期に、同一の所有者である根岸から、前記各所有地を買受けたものであって、このような場合、民法第二一三条第一項にいう「分割により公路に通ぜざる土地を生じたるとき」にあたる。

三  仮に別紙物件目録第五の土地について、原告に民法第二一三条の規定による囲にょう地通行権が認められないとしても、本件道路は非常に狭く、かつ、危険な道路であるから、原告所有地は、民法第二一〇条第一項にいう「他の土地に囲にょうせられて公路に通ぜざるとき」にあたり、仮にそうでなくても、同条第二項の規定を準用すべきものである。

四  以上のように、いずれにしても、原告は別紙物件目録第五記載の土地につき囲にょう地通行権を有するところ、被告三名及び承継参加人は前記のようにこれを妨げ、かつ、今後も妨害するおそれがあるから、原告は、被告三名及び承継参加人に対し、第二次的請求の趣旨記載の判決を求める。

と述べた。

被告穂積及び被告菊地両名(以下「被告穂積ら」という。)訴訟代理人並びに被告斎藤及び承継参加人は、主文と同旨の判決を求め、第一次的請求原因事実中、

第一項の事実は認める、第二項の事実は否認する(但し、被告斎藤及び承継参加人は、人が通れる程度の私道があったことは認め、原告主張の幅員については否認した)、第三項の事実は知らない、第四項の事実は否認する(被告穂積らは、さらにこれに加えて、建築基準法第四二条第二項の規定に基く道路の指定があっても、それは建築行政上の問題であって、その指定により直ちに原告に私法上の通行権が発生するものではない。たまたま事実上原告が本件道路を通行しえたとしても、これは、指定による反射的な利益にほかならず、これをもって権利ありとすることはできない、と述べた。)、第五項の事実中、原告主張の黙示の合意が成立したとの点は否認する、第六項の事実は否認する、昭和三七年九月一四日に原告と被告らとの間で成立した合意の内容は、本件道路のうち、被告菊地が当時建築した別紙物件目録第四の(三)の(1)記載の建物の本件道路側の側面の線(別紙図面G、Hを結ぶ線)を延長した線までは、原告及び被告三名が本件道路にくいこんで将来建築することを相互に認め、その余の幅員約一、五メートルの部分については、相互に通行を認める、というものであった、第七項の事実は認める、第八項及び第九項については争う、

と述べ、

仮に原告が、別紙物件目録第三記載の土地又はその一部についての通行権を有するとしても、本件道路は、東京都知事より道路の指定を受けたもので、かつ、被告三名は本件道路中の原告所有部分又はその一部分について通行権を有していたところ、原告は、昭和三七年一二月三〇日に、被告三名に無断で、別紙図面CDを結ぶ線上に板柵を設けて一般の通行を不可能にし、さらに、昭和三九年四月頃、私道廃止の許可も建築許可も得ることなく、本件道路中の原告所有部分に、別紙図面I、Jを結ぶ線までくいこんで、原告所有の建物を増築した。

これによって、原告は、本件道路のうち別紙物件目録第三記載の土地についての通行権を放棄し、あるいは、被告三名及び承継参加人に対しこれを主張することが禁反言の法理に背反しかつ信義則に照らし不当となったものである。

と述べた。

さらに、被告穂積ら訴訟代理人並びに被告斎藤及び承継参加人は、第二次的請求原因事実中、第一項の事実を認め、第二項の事実は否認する(被告穂積ら訴訟代理人は、これに加えて、被告菊地は、原告、被告穂積、宮崎らに先立って、根岸から菊地所有地を買受けたものであるから、民法第二一三条の規定の適用にあたっては、菊地所有地を除外して考慮すべきであり、民法第二一三条の規定によっては、原告は宮崎所有地又は穂積所有地を通行しうるにすぎず、本件道路についての囲にょう地通行権は発生しない、と述べた。)、第三項の事実は否認する、本件道路は、もと、幅員約一・二メートル以上あったものが、その近隣者等が増築するなどして、狭くなったものである、第四項の事実は否認する、

と述べた。

原告訴訟代理人は、被告三名及び承継参加人主張事実中、被告三名及び承継参加人主張の位置に、その主張の頃、原告が建物を増築したことは認め、その余の事実は否認する、被告三名及び承継参加人主張の板柵を設けたのは被告穂積である、と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一  道路の指定による私法上の通行権の発生について。

建築基準法の目的は、「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資する」(同法第一条)ことにあるが、個々の建物所有者ないし建築者と、その隣地の所有者等との利害の調整は、これらの者の間の特段の合意あるいは民法上の相隣関係についての規定等に委ねたもので、したがって、建築基準法に基く行政処分ないし行政上の措置がなされたからといって、ただちに私法上の権利が発生するものではないと解されるから、建築基準法第四二条第二項に基く東京都告示第九五七号をもって、本件道路が東京都知事より道路の指定を受けたことによって、当然に、原告に、本件道路の通行権が発生する旨の原告の主張は、失当である。

二  本件道路の使用状況等について。

(一)  根岸は、もと原告所有地、宮崎所有地、穂積所有地、斎藤所有地及び菊地所有地を所有していたところ、昭和二七年八月二五日に、被告菊地に菊地所有地を、同年一二月二七日に、原告に原告所有地を、宮崎に宮崎所有地を、被告穂積に穂積所有地を、昭和二九年六月一日に、被告斎藤に斎藤所有地を、それぞれ売渡した事実は、当事者間に争いがない。

(二)  ≪証拠省略≫を総合すれば、幅員約三・六メートルの本件道路は、その全域にわたって、すでに昭和一一年頃から近隣の者の通行に供されていた事実が認められ、右認定に反する通行に供されていたのは本件道路のうち幅員約一間半にすぎなかった旨の被告菊地本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  本件道路買受時の通行地役権設定の有無について。

原告主張の、原告及び被告三名が前記の如く根岸から前記各土地を買受けた際、原告と被告三名との間で、原告所有地を要役地とし、本件道路内の被告三名所有の各土地を承役地とし、原告が右承役地を通行しうる通行地役権を設定する旨の黙示の合意が成立した事実は、≪証拠省略≫以外にはこれを認めるにたる証拠がないところ、右≪証拠省略≫は、被告菊地本人尋問の結果に照らしたやすく信用できない。

四  昭和三七年九月一四日の通行地役権設定について。

(一)  被告菊地が、菊地所有地上にあった旧建物を昭和三七年八月下旬に取りこわしたうえ、別紙物件目録第四の(三)の(1)記載の建物を建築し、同建物の一部である同目録第四の(2)記載の建物部分(別紙図面3)を本件道路にはみ出させ、その本件道路側の側面が別紙図面ACE'Eを結ぶ線とほぼ平行である同図面G、Hを結ぶ線上にあることは、当事者間に争いがない。

(二)  ≪証拠省略≫を総合すれば、被告菊地の右建築がほぼ完成しかかった昭和三七年九月一四日に、原告、被告三名、本件道路の一部(別紙物件目録第二の(五)記載の土地)の所有者である訴外荒井勝三郎やその他の近隣の者が集まり(もっとも、原告及び被告三名の中には、その妻などの家族をその場に出席させ或いは発言させるなどして、それらの者を通じて意思を表明した者もあった。)、本件道路の利用方法等について話合いが行われ、その結果、その日の話合いに基づき、「証書」と題して、「世田谷区野沢町二の一〇九並びに一〇五番地の道路を、被告菊地の建築線に見習って今後絶対に以上を狭くしないことを誓います」旨を記載し、末尾に荒井、被告菊地、被告穂積、被告斎藤及び原告が連署し、原告を除き他の全員が捺印した(以上の署名捺印についても、家族をして代行させた者もあった。)同日付書面(以下「本件証書」という。)を作成した事実、その数日後、原告は、原告の妻を介し、「誓書」と題して、「菊地所有地建築物及び道路に対し異議は申しません。」旨を記載し、末尾に「念のため一筆誓います」と付記し、署名押印した(署名押印自体も、原告の妻に代行させた)昭和三七年九月一四日付書面(以下「本件誓書」という。)を作成して被告穂積の妻に交付したが、本件誓書を原告に作成させることについては、被告菊地が多大の関心を持ち、主に被告菊地の意思に基いて被告穂積の妻らが原告と折衝した事実及び昭和三七年九月一四日の直後に、原告の妻と被告菊地が、世田谷区役所建築課に赴いて同課係員立会のもとで話合いを行なうなどした後、まもなく、被告菊地の前記建築は完了した事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  ≪証拠省略≫を総合すると、昭和三九年九月一四日当時、本件道路と本件通路とは、原告所有地内の南東側の部分(別紙図面BKLMBで囲まれた部分)を経て接続していた事実、≪証拠省略≫によれば、昭和三七年九月一四日当時、被告穂積は本件道路内の原告所有の部分、右別紙図面BKLMBで囲まれた部分及び本件通路を経て、本件公道(ロ)との往来をすることがしばしばあった事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  昭和三七年九月一四日の合意により原告主張の通りの通行地役権が設定された事実は、≪証拠省略≫以外にはこれを認めるにたる証拠がないところ、右各証拠は、≪証拠省略≫に照らし、にわかに措信できない(本件証書をもって原告主張の通りの幅員の通行地役権の設定を認定しえないことは、後に述べるとおりである。)

(五)  しかし、≪証拠省略≫及び右(二)、(三)において認定した事実に、≪証拠省略≫によって認められる原告が本件証書に捺印しなかったのは、本件道路中の原告所有の部分の通行を受忍することの誓約を避けたいためであった事実及び当時被告菊地が原告に対し、通行を認めるから家を建てさせてくれと頼んだ事実を合わせると、昭和三七年九月一四日頃、原告、被告三名及び荒井の間で、本件道路のうち別紙図面ACE'Eを結んだ線とGHを延長した線との間にはさまれた部分について、相互に通行しうる旨の合意(以下「本件合意」という)が成立したと認めるのが相当である。なお、この点について、≪証拠省略≫は、道路とは法定の幅員以上のものをさすから、本件証書において道路としての通行を認めたことは、被告菊地が別紙図面3の部分の建築をすることを認めない趣旨である旨供述するが、一般社会通念上使用される「道路」の概念は、建築基準法第四二条に定めるような厳格な概念ではなく、広く、空地や庭などと区別された、人の通行に日常供されている土地を含むものと解され、本件証書の作成にあたっても、特段、「道路」の概念について厳格な検討を加えたことを認めるに足りる証拠もないから、右≪証拠省略≫は、にわかに採用しがたい。

(六)  したがって、原告と被告三名及び荒井との間の昭和三七年九月一四日の本件合意に基き、原告には、右認定の範囲において別紙物件目録第三記載の土地の一部を通行する権利が発生したものというべきである。

五  原告の通行地役権の放棄について。

(一)  昭和三九年四月頃、原告が、原告所有地上の原告所有の建物を増築してこれを本件道路上にはみ出させ、その本件道路側の側面は本件合意により被告穂積らの通行権が認められる範囲内である別紙図面IJを結ぶ線である事実、及び、被告穂積が、昭和三九年六月六日、別紙図面C、Dを結ぶ線上に別紙物件目録第四の(一)の(4)記載のコンクリート塀を設置し、さらに、昭和四一年六月には、本件道路上に同目録第四の(一)の(3)記載の物置を建築したことは、当事者間に争いがなく、又、≪証拠省略≫を総合すれば、昭和三七年一二月三〇日頃、原告は右CDを結ぶ線上に原告の側からのみ施錠しうるくぐり戸付木塀を作り、昭和三九年四月頃、原告の前記増築工事完成後自ら右木塀を撤去したが、その後、被告穂積は、右CDを結ぶ線上にトタンで塀を作り、原告の妻がこれを撤去したため被告穂積はさらに同所に前記コンクリート塀を作った事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

又、≪証拠省略≫によれば、原告の右増築工事完成により、被告穂積らが原告所有地のうち本件合意により通行権の認められた部分と本件通路等を経て、本件公道(ロ)に達することは、ほとんど困難になった事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  以上に認定したように、原告は、自らの参加した本件合意を最初に破って、まず右くぐり戸付木塀の設置によって被告穂積らの通行を不能にしたうえ、右増築工事完成によって被告穂積らの通行をほとんど困難にしたものであるから、これによって、本件合意により発生した前記通行権を放棄したと認めるのが相当である。

六  原告の囲にょう地通行権について。

(一)  原告所有地が公道に面しておらず、原告所有地から公道に達するには、本件道路のうち、別紙物件目録第五記載の土地を通行して、本件公道(イ)に達するか、又は、本件道路を通行して本件公道(ロ)に達するほかはないことは、当事者間に争いがない。

(二)  したがって、原告所有地の所有者である原告には、囲にょう地通行権があることとなるので、検討するに、前記認定の如く、根岸は、菊地所有地、宮崎所有地、穂積所有地、原告所有地、斎藤所有地を所有していたところ、このうちまず昭和二七年八月二五日に被告菊地に菊地所有地を売渡し残りの各土地は、別紙図面の如く穂積所有地を中にはさんで、原告所有地、宮崎所有地、斎藤所有地がいずれも穂積所有地と境を接し、合わせて一個の土地としての形状をなし、かつ、それが本件公道(ロ)に面していたものであるから、その後の分割により囲にょう地を生じたときは、その囲にょう地の所有者の囲にょう地通行権は、もっぱら、本件公道(ロ)への通路について生ずることとなる。

なお、原告は、この点に関し、根岸の被告菊地への菊地所有地の譲渡も、宮崎、原告及び被告穂積への前記各譲渡と同時になされたものと解すべきである旨主張するが、右菊地への譲渡は、右宮崎、原告及び被告穂積への譲渡よりも約四箇月も早く、通常、これを同時に譲渡したものと解するのは相当でなく、又、被告菊地への右譲渡後、新たな分割譲渡によって生ずべき囲にょう地の取扱について、根岸、宮崎、原告、被告穂積が検討する時間的余裕も十分あったから、特段、この点について、原告主張の同時譲渡の場合であると解する必要は認められない。

したがって、原告は、本件公道(イ)に達する別紙物件目録第五記載の土地について、囲にょう地通行権を有しないといわなければならない。

右のとおりであるから、原告主張の民法第二一〇条の準用は当裁判所としては採用しない。

七  よって、原告が本件道路中の別紙物件目録第三記載の土地又はその一部につき通行権を有することを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 三井哲夫 高野照夫)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例